夢の三角木馬

ما رأيت وما سمعت

2022年ベストアルバム

 

こんにちは、半年ぶりですね
前回の記事が去年の年間ベストアルバムですか、そうですか

今回の記事は、なんと今年のベストアルバムです

いやーなんとなく年間ベスト記事を何らかの形で10年も書いてきて、1年締めくくりの恒例行事に自分の中でなってしまったもんだから、流石に年末の時期になると妙な焦燥感が生まれるんですよね、まあ勝手にそう思い込んでいるだけで別に書かなくてもいいんですけど

でもここ数年記事を書く手が重く、とりわけ昨年度のベスト記事に至っては書く気が全く起きずに、結局今年の6月に書くトンチンカンな事になってしまったわけですが、今年は何となく早めに書こうという気が沸いているんですよね

僕は何か外側に向かった動機があるとやる気になる人間なのかもしれない

というのも僕みたいな人間、いわゆる"音楽は好きだけど能動的に発信しようという意欲が無い"タイプの人をTwitterで多く見かけることがあって(この辺りは去年スペースの一時的流行で音楽好き相互フォロワーが増えた事も起因する)、その辺りの人たちが、自分の今年気に入った作品を列挙したメモをスクショして、その列挙したアルバムのジャケットを結合させた画像と一緒にツイートとして流しているのをこの数日だけで2桁単位で目撃したんですけど、

 

あれ味気ないですね……
いやそのツイートが悪いとかではなく、自分が気に入ったものをキャプションも付けずにただ作品名だけ提示して処理してしまう行為、それがあまりにも散見されると、「本当に気に入ってんの?」と疑問が沸いてしまうというか……

加えて、今や音楽好きのサブスク全入時代、ここ数年で自分の目に触れてこなかった作品が指数関数的に増えていると年末に実感しますが、そんな時代に自分の好きなものをプレゼンする絶好の機会をみすみす逃している状況なのが勿体ない!

勿体ないんですよ、こんなに自分語りが全国的に許されている時期なんて年末くらいしか無いでしょ!自分語りといっても誰かに聞いてもらうだけでなく、未来の自分が過去の自分を参照するのにも非常に便利ですからね

とにかく、「本当に好きな物なら熱量持って接しろ!」みたいな体育会系の話がしたいのではなく、どれほど拙くても、2022年その時の自分のメンタリティやムード等を文章としてその場に置いておくだけで、横の繋がりとして、また自己の振り返りとして非常に価値のあるものになるだろうと今年の僕は思いました


そんな訳で、今年もベストアルバム10枚選び、拙いながらレビュー/感想も書きました

2022年の僕はそんな感じです

 

 

 

10.White Ward「False Light」

ウクライナのブラックゲイズバンドの3枚目。
ボーカルの高まる情動に呼応するかのように響くサックスが、流れの中で一旦冷めかけた熱を一定の温度に保ち続けている。それが作用して、アルバム全体から怒りのような力強さを感じるのは確かだが、その中にも冷静な理性を持ち合わせているようだ。

パワフルさとメランコリックな情緒、2つが重層的に掛け合わされた作品。

 

 

 

9.羊文学 「Our Hope」

微睡の中で現実を強く歌った作品。
2020年に疫病が蔓延してから閉塞的な空気が急速に進んだ世界に、"それでも世界ってのは捨てたもんじゃない"と、天国と地獄が入り混じる外の景色を見ながらあっけらかんと言い放つ。

サウンドに関しては、前作に比べ大分陶酔感が薄まった気もする。ギターで覆われていた個々の楽器隊の味の良さが明瞭になることで、表現の幅広さを如何なく発揮している作品となった。

 

 

 

8.SASAMI「Squeeze」

昨年Metallicaの「Black Album」トリビュート作品に参加したRina Sawayamaの「Enter Sandman」カバーを聴いた時にも感じたのだが、ポップスとしてのメタルのテクスチャーを、ポップスの定型を根幹から崩すことなく上手に取り込む事が、現代ポップミュージックの普遍的な所作として生み出されているのだと思った。

SASAMIの魅力にはそこに"潔さ"が加わっている。いくらでも着脱可能なテクスチャー、そしてそれを可能たらしめるSASAMIとしての音楽の母体。SASAMIならば次の作品に全く異なる音楽性を提示しても、それを受け入れられる程に作品の成熟度が濃い。

 

 

 

7.Sigh「Shiki」 

メタルにはめっぽう疎いので今作でSighの存在を知ったが、なるほどこれは面白い、ドゥーム的な重さも持ちながら、HR/HMのような軽さも持ち合わせている。
ブラックゲイズのようなノイズ感も持っているが、Deafheavenのようにポストロック/ドリームポップ寄りではなくあくまでもメタル側の重心に寄りかかっている。

この作品がきっかけで2001年作「Imaginary Sonicscape」も聴いた。これもまた傑作だった。この作品にはブラスサウンドが加わっておりJohn Zorn「Naked City」のようなハードで先進的なジャズの装いもある。

Sighはあらゆる音楽性を飲み込んで、メタルの文脈で正しく配置し直している。その底知れなさと快楽に興味が尽きない。

 

 

 

6.Bill Callahan「YTI⅃AƎЯ」 

Bill Callahanの作品に出合ったのは「Apocalypse」だが、それ以降の作品を追っていると、細やかにだが確実にギターの音色、展開の大胆さ、他ジャンルへの拡張が行われている。
John Faheyのようなミニマリズム的ギターに朴訥な調子の歌を詩の朗読のように紡がれていたスタイルから、シュールさを醸す捻くれたフォーク/ロックサウンドに変わり、
軽やかにメロディに乗せて歌おうという気概も感じる。

これまでダブやスロウコアを大きな要素の一つとして組み上げた作品も出してきたが、今作はそれらを一旦通り過ぎた果ての地に立っているのかもしれない。

 

 

 

5.Neptunian Maximalism

「Set Chaos to the Heart of the Moon」

ベルギーの実験的ロックバンドNEPTUNIAN MAXMALISMのライブアルバム。

極めて強く呪術的なイメージを想起させるバンドではあるが、そのイメージに負けず劣らず、ドゥームメタル~ダークジャズを横断したような深く暗いサウンドで、効果的に聴き手の感情を意図的に揺り動かそうとする。

時折見せるインプロヴィゼーションのような即興性からくる微かな不均衡、そのバランスの崩し方すらも予測された運動であるかのようで、何か人為的な意図を伴って行われる密教の儀式に垣間見える瞬間がある。故にアルバムを聴き終えるまで、精神の糸を切らしてはならない気分にさせられる。

「動」の発露すらも「静」に思えるほど、鈍重で粘りが強い作品。

 

 

 


4.Sundae May Club「少女漫画」

青春の雑味をこれほど愛おしく拾い上げてくれる作品があっただろうか。

どこかで誰かが経験した、今考えると恥ずかしくなるような青臭さ、あの時とるに足らないと思っていた物が、今になってかけがえのない物だと知った後悔、"君"にとってのありきたりな日常が"自分"にとって人生最高だと思えるような日、そんな歌詞には変化球無しまっすぐストレートのメロディがピッタリはまる。

ソングライティングのセンスにはインディーの地力をここに見た気がした。初夏の帰り道に思い出しては少し胸の奥が痛む物語を8編そろえた傑作。

 

 

 

3.Daniel Rossen「You Belong There」

Department Of Eagles、Grizzly Bearのメンバーとして名高いDaniel Rossenの初ソロ作。

DOEの2008年作「In Ear Park」の頃にもあった、フォークミュージックの佇まいのようで何か別の音楽を聴いているような奇妙な違和感、不安定なようでよどみなく流れるメロディ、不気味な華美さや洒脱さ、そのどれもが居心地が悪いはずなのに一種のアンビエントのようにさらりと聴けてしまう普遍性も兼ね備えた、幽霊のように不可思議で掴みどころがないが、裏を返すと何度でも聴き返せる作品になっている。

今まで聴いてきた音楽のテクストから抜け落ちてしまったかのような、極めてオルタナティブ性の強い作品。

 

 

 

2.Viagra Boys「Cave World」

暗闇で踊るならこんな音楽。
Front 242を思わせる電子インダストリアル的なEBMミュージックを基盤としながら、エネルギッシュで官能的なボーカル、ズシンと来るパンキッシュなダンスビート。

音楽に"踊らされる"なんていつぶりだろうか、頭で音楽を理屈立てて知覚する前に本能で体を動かしたくなるなんて…

しかし大体の作品において、1周目でこのような感想を抱くのが関の山で、2週目を聴き始めるとそういった感情が段々薄れていくのだが、この作品はそれが無かった。

何度聴いても1周目と同じ感情が沸き上がってくるのは正しい傑作の証だと思う。

 

 

 

1.black midi「Hellfire」 

誰がどう聴いても奇妙奇天烈なプログレを作ってしまった事実が恐ろしい。

変拍子を多用するアプローチからしばしば高円寺百景と比較される今作、高円寺百景と明確に違うのは、高円寺百景でいう所のMagmaのような何か大きな参照元を見出せない所にあり、そのブラックボックス化されたバックボーンを様々な形で還元している所であるだろう。

今作は「Welcome to Hell」,「Sugar/Tzu」のような動の要素を極端に発揮した部分だけでなく、「Dangerous Liaisons」のようにカンタベリーよろしくジャズロック的振る舞いを(あくまでblack midi的解釈ではあるが)ソツなくこなしている点も注目してみると、
遠くの俯瞰から見ると奇妙奇天烈だが、近づいてみると細かな調和が端々に見られる作品でもある。

奇怪でカオスな間違いない大傑作。