夢の三角木馬

ما رأيت وما سمعت

2020年のベストアルバム30枚

今年もこの記事を書く時期になってしまいました。
あっという間の2020年でした、なんだか1年どころか半年ぶりぐらいのペースで書いてる気がします。
この1年はどこかに遠出してレコ屋巡りをすることが出来なくなった代わりに、通販やBandcampで音源を買い漁っていた年でした。
しかし今年はここ数年で一番忙しく、中々音楽を聴く時間も取れていないだろうな、と思いRateYourMusicで自分が今年新しく聴いた音源の数を数えたら、12月9日現在の時点で709枚(内新譜225枚)聴いていました。
我ながら執念を感じましたね。
まあ執念もそうですが、今年から聴き方を大幅に変えまして、以前までは駄盤や名盤、どんな作品でも最低5回はリピートする事を心がけていました。
そんな中、今年の中頃にとある音楽好きの人と話している中で、その人が「沢山の作品を聴いていると良い作品かそうでないかは1回聴いただけでわかる」と仰っていて、そこから自分の新しい聴き方に着想を得ました。
今後は今まで3000枚聴いてきた自分の勘を信じてみようかと思い、リピートの回数を5回から2回に減らし、一層自分の感性を研ぎ澄まして耳を傾ければ、今よりも多くの作品に触れられるのではないかと考え付きました。結果700枚の作品に触れる事が出来ましたし、良し悪しを判断する自分の基準がより濃くなった気がします。
一方で、何回も聴く事で良さが浮き出てくる作品を見落としているのではないか、という不安も頭の片隅にいて、今後この不安をどう払拭しようか模索していこうと思っています。
まず来年は聴く音楽のジャンルをもっと狭めて、同じジャンルの作品に沢山触れて
より理解を深めながら評価基準を固めていきたいと考えてます。そんな来年の目標(展望?)を持ちながらとりあえず今年の良かった作品をランキングで振り返ります。

このランキングにある作品はどれも2回どころではなく最低4~5回、ほとんどそれ以上聴いてます。本当にお気に入りの作品を選びました。
よろしくお願いします。

 

 

30.Hen Ogledd/ Free Humans (Art Pop, Synthpop)

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29.Pendragon/ Love Over Fear (Neo-Prog, Symphonic Prog)

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28.Loathe/ I Let It In and It Took Everything (Alternative Metal, Shoegaze)

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27.Sunny Day Service/ いいね! (Indie Rock, Alternative Rock)

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26.Duval Timothy/ Help (Neo-Soul, Nu Jazz)

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25.Kenny Segal & Serengeti/ AJAI (Abstract Hip Hop)

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24.Liv.e/ Couldn't Wait to Tell You​... (Neo-Soul, Psychedelic Soul)

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23.Suso Sáiz & Suzanne Kraft/ Between No Things (Ambient)

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22.Panchiko/ Ferric Oxide (Indie Rock, Trip Hop)

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21.Zebra Katz/ Less Is Moor (Experimental Hip Hop, Deconstructed Club)

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20. Roedelius/ Tape Archive Essence 1973​-​1978 (Ambient)

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19. Gezan/ 狂 (Noise Rock, Neo-Psychedelia)

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18. Hania Rani/ Home (Chamber Pop, Ambient Pop)

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17. Dua Lipa/ Future Nostalgia (Dance-Pop, Synthpop)

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16. Fleet Foxes/ Shore (Indie Folk, Folk Rock)

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15. TALsounds/ Acquiesce (Ambient, Minimal Synth)

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14. Cadu Tenório/ Monument for Nothing (Dark Ambient, Post-Industrial)

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13. Gunn-Truscinski Duo/ Soundkeeper (Psychedelic Rock, American Primitivism)

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12. Pontiac Streator/ Triz (Ambient Dub, Glitch)

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11. King Krule/ Man Alive! (Art Rock, Post-Punk)

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10. さよならポニーテール/ きまぐれファンロード (Indie Pop)

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ほぼ毎年のように出しているさよならポニーテールのアルバムも今作で8枚目である。
ジャケットのファンシーさ/ポップさとは裏腹に内容はミドルテンポの曲が多く、30分ほどで一周出来る長さなので、コンパクトにまとまっている印象が強い。
しかし単曲ごとに見ると、これまでには無かった新しい(奇妙な)試みをしている曲が多数あり、(「初恋ペンギン」でのローファイな打ち込みサウンドや、「それゆけジャーニー」での過去曲のセルフオマージュetc...) 油断ならない作品だ。
紋切り型にならず、かといってアーティストのイメージを崩さないようにしながら新しいポップスを作り続ける事に今年も敬意を表したい。

 

 

 

9. Naujawanan Baidar/ Volume 1 & 2 (Islamic Modal Music, Psychedelic Rock)

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The MyrrorsというUSバンドのフロントマンNik Rayneによって制作された
数十年前のカブール地方の音源を再構築させた、アフガニスタン・サイケコラージュ。
元々Nik Rayneの在籍しているバンドがサイケデリックロックを中心とした音楽を作っていたため、自然とそのような空気を帯びてしまっているのか、はたまたこのアラビックな土着音楽そのものに宿っているミステリアスさを「サイケデリック」という言葉に自分が都合よく同化させているだけなのか。
このザッピングされた景色に蠱惑的な魅力を受ける一方で、自分が全く触れてこなかった概念を勝手に自分の言葉で定義してしまう事の危うさも感じている。

 

 

 

8. 青葉市子/ "Gift" at Sogetsu Hall+アダンの風 (Chamber Folk, Ambient Pop)

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今まで青葉市子と真剣に向き合っていなかったことを謝罪したいほどに素晴らしい。
何となくSpotifyで配信されていたライブアルバム「"Gift" at Sogetsu Hall」を聴いて、
張り詰めた緊張感と鬱屈とした歌詞と対比するかのような、穏やかで柔らいがしかし芯の通った歌声に心を持っていかれてしまった。
新しいスタジオアルバム「アダンの風」では、今までのクラシックギター1本だけではなく、過剰になりすぎない程に装飾を施して彩りに華を添えた作品になっており、より雰囲気に深みがある作品になった.。

 

 

 

7. Fools/ Fools' Harp Vol. 1 (Ambient, Progressive Electronic)

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有名インディーロックバンドGrizzly Bearのドラマー、Christopher Bearの別名義
Foolsによるアンビエント作品。
満遍なく響く柔らかいシンセの中に不規則に鳴らされる特異な金属音、森の中を想起させるような丸みのあるパーカッションの音など、それぞれの曲群の中で様々な素材を駆使しており、Christopherのマルチインストゥルメンタリストとしての実力がいかんなく発揮されている。

 

 

 

6. Protomartyr/ Ultimate Success Today (Post-Punk, Art Punk)

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ポスト・パンク界でも異彩を放つProtomartyrの5th
人を簡単に寄せ付けないアングラでゴシックな空気を纏っていた初期の頃に比べ、キャッチーでノイジーなギターや怪し気なブラスサウンド等が加わり、シリアス度はそのままにバンド特有の音の層の厚みを見せつける作品となった。

 

 

 

5. Neptunian Maximalism/ Éons (Avant-Garde Jazz, Drone Metal)

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ベルギーの実験的ロックバンドNEPTUNIAN MAXMALISMの2nd
ドゥームメタル~ダークジャズをクロスオーバーさせた下地にノイズ・サイケなどの付加要素を散りばめた2時間超えの大作
ジャケットのアートワークは金子富之の「畏敬金剛(2014)」から使われている。
この作品は各章のタイトル「To the Earth」、「To the Moon」、「To the Sun」から連なる三部作で構成されており、アルバムのコンセプトの核にもなっている宇宙的・自然的思想や音楽的要素の一片はSun RaやJohn Coltraneに影響を受けたものらしい。
様々な情報が折り重なって生まれるこの重苦しさは「Swans/The Seer」に似たものを感じるが、こちらはポストロック的な静と動の反復は無く常にほぼ一定の上がらずも下がりきらないテンションで付きまとわれる分、作品の印象が聴き手のコンディションにかなり左右されそうではある。
心身が不調な時に聴くのは勧めない。

 

 

 

4. Golden Retriever & Chuck Johnson/ Rain Shadow (Ambient, Drone)

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バスクラリネット奏者Jonathan SielaffとシンセサイザーMatt CarlsonによるデュオGolden Retrieverと、ギタリストChuck Johnsonによるユニット。
雨雲を含んだ風が山を越える際に、風上側で雨が降り、風下側は陰となって乾燥する現象である「Rain Shadow(日本語では雨蔭)」というタイトルの通り、前半はクラリネットとシンセの作り出すまっさらな広々とした空間に、荒涼さを表現する単音のギターが点々と置かれ、乾いた空気を醸し出している。
後半に行くにつれ段々とシンセの音に揺らぎが生まれ、クラリネットの音色が艶やかさを増し、荒涼とした大地に陰を落としていくような湿っぽさを演出する。
そのような想像をしながら聴くのも楽しいが、ただただシンセの爽やかな音に身を任せるだけでもいいかもしれない。

 

 

 

3. Bastien Keb/ The Killing of Eugene Peeps (Dark Jazz, Downtempo)

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なんだ……!!!?このアルバムは…?
50~60年代映画の劇伴音楽のような重いブラスサウンドで始まったかと思いきや、次のトラックではピアノと弦楽器で構成されたバロックポップサウンドに、Justin Vernonのようなファルセットボイスで歌っている…かと思いきや「La planète sauvage」の劇伴のようなサイケ感溢れるダークジャズが始まり、そしたら次はPink Floyd「Speak to Me」のオマージュのようなギターソロが現れて、もうお腹いっぱいだ!と思った辺りで急にダウンテンポのビートと共にヒップホップサウンドに早変わり……

イギリスはウォリックシャー出身のマルチインストゥルメンタリストBastien Keb
キャリア3枚目となるこの作品は全体的にダークジャズの空気を纏っているがとにかく忙しない。
自身の色々な影響を隠そうともせずにアルバムにあれもこれもと突っ込んで、結果非常に混沌としたダウナーな作品に仕上がっている。

ちなみに上記のような感想を抱いた後に購入先のBandcampの作品紹介コメントを見たら、Bastienは「Bon Iverとしばしば比較されるアーティスト」であり、今作は
「想像上の映画音楽」として作成されたものである事がわかり、まんまと作り手の思惑に乗せられてしまったな、と少し悔しい思いをした。

 

 

 

2. Hasami Group/ DOITORA (Indie Rock)

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日本のインディ界で異彩を放ち続けるHASAMI groupの20枚目のアルバム。
自分はフロントマンの青木龍一郎がYoutubeで上げている曲は一通り聴いているが、過去のディスコグラフィをしっかり追ってはおらず今作が初めて聴いたフルアルバムとなった。
まず、ソングライティングが抜群に良い。こちらのツボを的確にさりげなく押さえてくる明るくて切ないコード/メロディを前半の曲の中に入れながら、おちゃらけた世界観の中でハッとするような真理を突き付ける歌詞を差し込んでくるセンスがとても見事。
後半にいくにつれ不穏な曲調とシュールでどことなく不安になる物語を朗読しているような歌詞が前半の空気とうまく折り重なっていて、そして最後のトラックで名残惜しい哀愁を残しながらアルバムが終わる。

完成度が出来すぎていて恐ろしさすら感じてしまった。
もしかするとその創作の源はフロントマン青木のYoutubeディガーとしての一面と関係があるのでは、と考えたが、その話は長くなりそうなので後は各自で。

 

 

 

1. Robert Haigh/ Black Sarabande (Ambient, Modern Classical)

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今年ほど「癒し」が必要な時間を求めた年は無かったし、寂しさを覚えた年は無かった。
どこへも行くことが出来ず、面と向かって友人と話す事がどこか後ろめたさを感じてしまったこの年で、自分の心の拠り所の一部である音楽に、自分の渇望する感情の穴を埋めようと必死だったのかもしれない。

この音楽は「癒し」である。
悲愴なメロディラインを奏でる揺蕩うような音のピアノと、奥行きの反響がもたらす没入感。今スピーカーでこれを流しながら横になって目を閉じたら、すぐに眠りに落ちてしまうほど安心させてくれる音楽だ。

しかしながら音楽は自身の渇望の穴を完全に埋めることは出来ない。
穴の一部を「癒し」によって(暫定的に)埋めることが出来ても、音楽では埋まらなかった他の部分がより際立ってしまう事になり、アルバムの再生が終わると同時に、空虚な穴から冷たい風が体を通り抜ける感覚に陥る。

音楽が持つある種の特効薬の役割と、全能性の否定。
聴き手の初歩として分かっていたはずだったのに、この作品を通してその事実を改めて突き付けられると、より一層寂しさが増す。